The Ghetto Blasterz: 中西俊夫+椎名謙介+松崎ジュンイチ

May 30, 2015 at Tokyo CALTUART by BEAMS
Photo: 下家康弘 (Yasuhiro SHIMOKA) except Live photo*  / TEXT: Tomoya Kumagai (SLOGAN)
The Biggest Special Thanks to Shuji Nagai@BEAMS

プラスチックス、メロン、Major Force、Skylab等で世界的な活動を見せてきた中西俊夫が、東京で新たなグループを結成した。
その新グループ、Tycoon Tosh + the Ghetto Blasterzによる展覧会(Tokyo Culturart by BEAMS)とデビューライヴ(6月6日午後6時〜、同会場)が開かれる。
メンバーは中西のほかに、スネークマンショー時代から中西とパートナーシップを結んできたサウンドメーカーにしてオリジナル楽器制作者の椎名謙介、そしてラジカセ/家電蒐集家として各界の熱い注目を集める松崎ジュンイチ。
この異色のグループの掲げるスローガンは“デジタルを破壊せよ”。中西俊夫によるラジカセをテーマにしたペインティング、数多くのヴィンテージ・ラジカセ(音が出る!)、椎名謙介オリジナルのブームボックス、そして展示された数多くのカセットテープたちには、一種の懐かしさと同時に、現在のデジタル機器・デジタルの表現には全く見られない「新しさ」に満ちている。
展覧会を訪れる方々は、手持ちのiPhone/スマホの音源をラジカセに繋いで音楽を鳴らしてみてほしい(接続コードを貸し出している)。その「鳴り」の良さに驚かされることになるだろう。

6月6日、このグループによるデビュー・ライヴが行われる。PAも兼ねるラジカセによるテープ・コラージュ、アナログシンセによって、プラスチックスやメロン、そのほかの名曲が新たな息を吹き込まれることになるだろう。

Live 666 -June 6, 2015 (*)

■アナログ&ラジカセの復讐。中西俊夫+椎名謙介+松崎ジュンイチ、新グループ結成!

──この新グループ、ザ・ゲットー・ブラスターズの結成のきっかけになったのは?

中西俊夫: それはやっぱり、松崎ジュンイチさんと出会ったことだよね。

──噂の松崎ジュンイチさん、改めての自己紹介をお願いします。

松崎ジュンイチ: 家電蒐集家、家電考古学者として、人と家電(モノ)の在り方を、蒐集によって研究しています。ラジカセは5000台くらい持っているかな。それをレストアしたりしつつ、ラジカセを現代に活かす方法がないかなと模索しているところです。

──そしてもうひとりのキーパーソンが椎名謙介さん。

中西: 椎名くんとは以前から一緒に活動していて、僕のギターをカスタマイズしてもらったり、電子音楽器を作ってもらったりした間柄。彼は楽器でもブームボックスでも自分で作ることができる。

──謙介さん、自己紹介をお願いします。

椎名謙介: わかりやすくいうと、完全無資格の電機屋です(笑)。

中西: この3人でトリオを組めばおもしろいことができるんじゃないかなと思ったんだ。

松崎: 僕は20代のときにはピテカントロプス信者で、中西俊夫は教祖的な存在だったんです。文字通りに毎週原宿まで通ってメロンを見ていましたから。椎名さんのことも当時のピテカンで見かけたことがあった(笑)。

中西: 家電蒐集家としての彼のラジカセコレクションがなかったら、このプロジェクトは不可能だった。

松崎: 中西さんとの出会いは、僕にとっても、家電が一番家電らしかった時代をリスペクトできるチャンスだと思いました。

──謙介さんが楽器やブームボックスを自作するようになったことの経緯は?

椎名: 僕の家は頼めばなんでも買ってもらえるという家庭ではなかったから、なんでもできるだけ自分でつくるという志向になった。音楽を聴くための機材も、限られた予算の中でいろいろ自作しなければならない。そしてハンダゴテを持つようになったんだね。

──まだ「ウォークマン」が発表される以前、高校生の頃にすでにヘッドフォンステレオを自作していたと聞いていますが。

椎名: 高校の時は毎晩ヘッドフォンでロックを聴いていた。ところが修学旅行がある。参ったな、いつものようにロック聴けないじゃん! それなら可搬型ステレオを作ろう!……それがウォークマン発売の3年前。新幹線の車内掃除用のコンセントから電気も盗んだ。今の言葉で言うとハッキング。ハッカーでいることはとても重要。

■このグループで世界を変えたいんだ。ちょっとだけね。デジタルの呪いから音楽を救いたい

──改めてラジカセで音楽を聴いてみると、その音の太さとなめらかさにびっくりしましたね。ラジカセを前面に押し出したこのグループの目標を教えていただけますか?

中西: 目標は世界を変えることだね。ちょっとだけね。

松崎: 変えたいですね。

──どういう方向にですか?

中西: 世界に制御不能な力をもう一度回帰させたいということかな、究極的には。デジタルには、全てを分析して再構成すればコントロールできるというデカルト的な考え方が根本にある。そのデジタルの波が音楽だけじゃなく、今のこの世の全てを覆っているじゃない? そのデジタルの呪いからまずは音楽を救いたい。清めたいんだ。

──清める!

中西: 本当はオリジナルのアナログレコードからカセットに録音するのがベストだけど、CDからカセットに録音するだけでも十分にデジタルの呪いを清められる。神社仏閣を清めるのとはまたワケが違うけどね(笑)。

──デジタルの呪いというのは、具体的には?

中西: CDやデータは、音楽の持っている情報が単純にものすごく間引きされているわけです。デジタルの波形を見るとわかるけれど、全てが0と1で分けられて、そのあいだはデータが存在していない。情報量が減っているんですよ。

松崎: デジタルは、いわば、本物にすごく近いニセモノだと思います。0と1に置き換えたデータは、本当には心に響かないのでは……。

中西: ガムラン音楽とかをライヴや昔のレコードを聴くと、そのデジタルのデータで聴くときと脳のアルファ波の出方が全く違うらしい。

松崎: (ライヴやアナログは)超音波の部分もカヴァーしていますから。耳で聴こえない音も、身体は聴くことができます。

■デジタルが音楽の存在を小さなものにした!

中西: そもそもCDが出たときに、聞こえない領域を切り捨ててしまったのが間違いだったね。聞こえないからいいやということで、高音と低音をバッサリ切り落としてしまった。

──デジタルが音楽を小さいものにしちゃった、と。

椎名: アナログの時代には電機メーカー各社が、家庭用の再生装置でも良い音を出すために技術力と回路設計を競っていた。でもCDが出てからは20Hzから22kHzという帯域が保証されたために、みんなが特には努力をしなくなったんじゃないかな? 日本のオーディオ・メーカー全滅の理由の一つだと思う。

中西: 別にテクノをディスるつもりはないけれど、クラブでテクノをMP3やCDがかかっているのを身体で聴いても、変に重低音とかシャカシャカしている感じがあって、なにか大切なものが欠落している感じがするんだ。

松崎: 確かに。

中西: いま思うと、DATが出てきたあたりから、世界が本来の進化の方向とは違って退化し始めたような気がするね。DATが出た時、これじゃ皆がマスターテープを持つことが可能になってしまうと言われだして、それなら3回しかコピーできないようにしようとか、いろいろとサル知恵を出しまくったんだけど、結局のところは限りなく複製ができる世界ではコピーの防ぎようがないし、そうなると、音楽を所有する意味もなくなっちゃうんだよね。

松崎: 音楽を所有するという概念が、デジタルで失われてしまった……。

中西: どこかにマスターをアップしてストリーミング再生してればいい、ということになってしまった。アカシック・レコードみたいなものだね。

──でも、プラスチックスは、「COPY」「DIGITAL WATCH」とか、デジタル/未来に対する夢を感じさせていましたよね。

松崎: 未来的感覚、確かにありました。

中西: 僕らが「DIGITAL WATCH」を歌ってた当時は、デジタルがかっこよくて未来的で、すごく輝いて見えていたんだけど、実際に未来に来てみたらジョージ・オーウェル(『1984年』)やフィリップ・K・ディック(『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』)の世界になっていた……。

──確かに、未来ってここまで地獄だったのか、という感じはありますね。

中西: スーパーフラットだし、デフレだし。

松崎: スーパーフラット、まさしく。

■コントロール・フリークに対する反逆。制御不能。Wild HorsesならぬWild Forces

──今回のプロジェクトは、ラジカセ/アナログを介して、音楽のそもそもの力を復権する試みだと言っちゃっていいですか?

中西: そんなに深くは考えてなかったけど(笑)、デジタルというパンドラの箱を開けたからこそ、いろいろな問題が全てそこに戻ってしまうのかもしれないね。別に音楽に限らず、経済も、話題のマイナンバー制とか、政治までも、全てがデジタルになってしまっているんですよ。

──それはおもしろい。

松崎: そうですね。音楽の魅力って、音「だけ」ではなく、レコード・ジャケットのグラフィックや様々な要素があったと思うんですよ。

──それは「データ」にはなり得ない。

松崎: そうですね。音楽本来の魅力がきちんと発揮されるのであれば、デジタルでもアナログでもどちらでもいいと思うのですが、デジタルが課題を克服するのはこれからかなと思うんです。

中西: そうね、フィルムやテープくらいにデータ量が増えればもう一度戻るかもしれないね。今はデータの間引きが大きすぎる。

松崎: デジタルのメリットはありますが、デメリットがまだ大きい。デジタルは使いこなし、アナログは愛すべきもの、というのが僕のポリシーです。

中西: 現代音楽には大きな流派がふたつあって、それにも似た構図かもしれない。ひとつは、オシレーターのサイン波とのこぎり波を組み合わせれば、この世の全ての音をつくることができるはずという発送。シンセの基本になった考え方だね。そしてもうひとつは、レディメイドの音を使って加工しよう、と。ミュージック・コンクレート、コラージュ、カットアップ的な発想だね。

松崎: 対照的な事象ですね。

中西: 今回のライヴは、テープ・コラージュとアナログ・シンセを使う。全てのシンセはデジタルに行き着くはずなんだけど、アナログ・シンセはまだアンコントローラブルな部分がすごく大きいのがおもしろいよね。そしてもちろんテープ・コラージュも同様にアンコントローラブル。

松崎: アンコントローラブルな部分にこそ、音楽のおもしろさがある。

中西: 楽しさもね。だから今回の狙いは、コントロール・フリークに対する反逆なんだ。

──おお。

中西: 制御不能。

松崎: まさしくアナログの真骨頂。

中西: 荒馬を乗りこなすようにね……。Wild horsesならぬWild forces。制御不能の衝動。DEVOにも「Uncontrolable Urge」という曲があったね。

──今回の展覧会とライヴの見所をひとことで教えていただけますか?

中西: その場で体験しないとわからない、ということかな。

松崎: モノで感じる音楽の魅力。

──そもそもライヴはどんなものになるんですか?

中西: それはトップシークレット。制御不能。

松崎: やはり制御不能な……暴走。

中西: 列島。

──暴走列島。確かに最近、地震多いですしね。

中西: 日本沈没、そして勃起。

──ここで下ネタですか。リーダー暴走、まさしく制御不能。

中西: 日本沈没、そして再隆起ということにしよう。ところで、椎名君、寝てるよね。